MedTech Angelsとは何か
6社のスタートアップが語る
プレモパートナーは、2023年5月25日に「MedTech Angels Demo Day」を開催。昨年に続き2回目となる今回も、医療関係者、投資家、事業会社など300人が参加しました。次なるステージへの飛躍を願って、6社のスタートアップが新規事業の紹介をしました。そのピッチイベント終了後に行われた座談会では6社のトップらが語る、起業の醍醐味とその苦労。それを、どう乗り越えたか。聞き手は、MedTech Angelsアクセラレーションマネージャーの柿花隆昭。
Direava株式会社
代表取締役CEO 竹内 優志氏
「人工知能を用いた手術支援システムの開発」
株式会社fcuro
取締役CTO 井上 周祐氏
「救急診療における見逃しと時間の問題を解決する全身検索型画像診断AIシステム」
DELISPECT
共同代表CEO(予定)金田 賢氏
「”せん妄”という意識障害を対象とした発症予測・発症抑制のためのAIプログラム」
株式会社スパインクロニクルジャパン
CEO 米澤 則隆氏
「高齢者脊椎の再手術を軽減する新しい脊椎治療機器」
株式会社xCura
代表取締役CEO 新嶋 祐一朗氏
「VRを用いた疼痛管理」
InnoJin株式会社
取締役COO 奥村 雄一氏
「眼科領域におけるスマホアプリ型プログラム医療機器」
ピッチイベントでの発表、お疲れ様でした。最初に、アーリーフェイズの3社であるDireava竹内優志氏、DELISPECT金田賢氏、スパインクロニクルジャパン米澤則隆氏に、医療機器の開発で苦労された点を教えてください。また、アクセラレーション・プロジェクトで明らかになった点は何だったでしょうか。
米澤氏: 昨年の9月までゴリゴリの臨床医をフルタイムでやっていました。(笑)以前から事業構想をもっていましたが、医療機器開発では素人状態。そこで本腰を入れて事業化するために、10月からは事業とドクターを半分半分で進めています。そのなかにあっても、医療機器って、どうやって製造すればいいのか。実は、皆目わからないなかで、MedTech Angelsのメンタリングを受けました。そこで、マーケティング、薬事などを学びました。
竹内氏: これまで論文や学会などで発表してきた経験上、自分のやっていることは非常に新規性のある、面白いものであると確信はしていました。しかし、事業化や販売ともなると、面白いだけでは通用しないことに、MedTech Angelsで気づかされました。真に、人のために役立つものなのか、外科医にとっても役立つものなのかと。当初は、臨床的な有用性を考え抜かれているものかなど、考えていませんでしたから。
私の事業アイデアを他の医者に聞いてもらうと、皆指摘してくれることは異なります。自分自身のなかでニーズ探索ができていなかった。本当になければならないものを開発しなければならないにもかかわらず、ニーズ探索の時点で製品のイメージがつかめず苦労していました。そんなときに、MedTech Angelsで事業化までの道筋を教えてもらい、薬事や保険償還について理解を深めていきました。よくいわれる例えなのですが、ゴールの見えてない外科医は患者さんのこっちを切ったり、あっちを切ったり。(笑)ゴールまでの道筋のつけ方を教えてもらったのが、よかったのだと思います。
金田氏: 創業前の段階で、MedTech Angelsに参加しました。医師だけではなくビジネスの専門家ともタッグを組んでやっています。医師は臨床を大切にされており、それを補う形で事業推進は私のほうでやっています。
なんといっても資金調達は苦労の連続でして、国のプロジェクトを取りに行ったり、製品開発もやっていかなければならない。薬事とか、専門性の必要な部分は、見過ごされがちで後回しにしがち。そんなときに、MedTech Angelsではアクセラレータが、やるべきことを粛々と提示してくれますので、否応なしにやらなければならない。いついつまでに資料づくり、メンターへの説明と、同時並行で考えていくことができました。ここが、最もありがたかったことです。
次に、製品のプロトタイプが形になっている3社、Innojinの奥村雄一氏、fcuroの井上周祐氏、xCuraの新嶋祐一朗氏に、苦労された点を伺います。
奥村氏: なんといっても、組織づくりには苦労しました。医者が集まって起業した会社ですので、エンジニアはどこまで内製化すればいいのか、CFOはどうすればいいのか、組織を大きくするうえで人材の配置をどうすればいいのか、と。現在でも、戦略そのものを構築している段階です。
あとは、医療機器開発=PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)対策だと考え、いかにPMDAでの承認を取るかがゴールのイメージだと考えていました。しかし、本プログラムを通じてすべてのプロセスをバランスよく考える、特に薬事だけでなくQMS(品質管理システム)、薬事承認後の保険償還も合わせて広い視点で考えるということが重要だと気づきました。こうした視野を広げることを、開発段階で学べたのがポイントといえます。
井上氏: 私たちのビジネスは、まだ明確な戦略が立てられたとは言えない状況です。2021年に医療機器としての承認を得ることを目的にアドバイスをもらい、翌年にQMSをつくってみることにしました。ここでは、大量の書類作成に追われ、実際に現場で医療機器をつかってもらうときに、救急の現場ではリスクコントロールが実に大変であることが明白になりました。現在は料金設定するうえで、新たな課題が出てきています。
こうした課題に対して、MedTech Angelsではすでに医療機器をつくられた人からのアドバイスを聞く機会があり、非常に参考になりました。医療現場で使う上で、プログラム医療機器として製品化する必要があるとアドバイスはいただくのですが、具体的に薬事と保険償還とをどう組み合わせるか、その先のビジネスモデルのところまで、つなげられておらず困っていました。本プログラムでここを見事につなげてくださったのが、ありがたかったです。
新嶋氏: 私自身はドクターではありません。VRエンジニアなので、事業化への魅力的な部分を理解しているわけでもなく、医学的なバックグラウンドがあるわけでもありません。そのなかで、早く医療機器をしなくちゃならないという思いはありました。MedTech Angelsを受けるなかで、必ずしも医療機器の製品化だけのプロセスを学べたことがメリットではないと思っています。ステップを踏んだことで、会社としての利益創出につながったと強く感じました。こうした点を有機的に考えて、戦略を構築できたのは素晴らしいものでした。これはもう、ネット検索でわかることではありません。
また、専門家からの1on1ミーティング(1対1で行う面談・対話)によるメンタリングは、今後の戦略を考え抜くうえでも、素晴らしいきっかけとなりました。
薬事、保険償還、QMSでの課題が大きかったというのが、皆さんの発言に多くありましたね。では、AIという最先端技術に関してはいかがでしょう。そこで苦労された点はなんだったのでしょうか。
竹内氏:事業としては未完成であることを前置きしたうえでお答えします。外科領域の現場では、AIが100%で使われることは絶対ないと思っています。AIが間違えたときに、はやり診断はクリティカルになってしまう。やはり、AIに頼りすぎてはいけない。ここまではAI、補助的な部分をAIにやってもらうという意識でやらねばなりません。
井上氏:エンジニアとして思うところは、前職で開発していたときとはまったく異なり、医療機器のAIは、経産省やPMDAのガイドラインなどで仕様が決められているところがあり、リスクコントロールや承認制度にいかに対応していくかが重要です。ですが、全て会社側で対応しなければいけないわけではなく、PMDAに相談をしたら、ヒントになる情報を提示してくれました。PMDAなどとも積極的に議論していくことも、大事だったと思います。
金田氏:実は私たちの事業は先行事例のないものですので、苦労したことも事実です。何がエビデンスとなるのか、そうしたベースになるデータもなくゼロからのスタートは厳しいものがありました。PMDAも回答を持っているわけではなく、議論しながら作り上げていく必要があります。しかし、発想を変えれば、これが強みになることも、疾患領域、プログラムによってはあり得る。私たちが先行事例になればいいと感じています。
奥村氏:プロダクト自体はアプリ開発が中心であり、身近にあるスマホのカメラを利用しての事業開発をしたいと考えています。それゆえ、ソフトウエアのプログラムとしての製品は1つなのですが、使うスマホの機種に合わせた対応が必要になります。こうしたことは、事業化が終わるまで大きな制約になっています。PMDAのガイドラインもアップデートの速い分野でもあるので、常に目を光らせてフォローしていかなければなりません。
新嶋氏:VRのペインコントロールはスマホやVRの使い方など説明コストに課題があります。薬は飲むだけで効果が出るものでしたが、まだデジタルセラピューティックスは黎明期。業界全体で効果があるということの認知度を上げていく取り組みが必要です。
生成AIの動きが活発です。これは、皆さんの事業にとって好機なのか、それともカオスとなるのか。この辺りの見解をお聞かせください。
金田氏:クリティカルな指摘です。私たちは看護師さんを対象にした製品で、ユーザー側の負担を軽減するためのもの。それゆえ、生成AIとは非常に相性のよいものと感じています。むしろ意識しなければ、既存のものを破壊するほどの危険性を孕んでいると考えています。医療従事者の効率化という観点でいうと、教師としてのAIというより、業務を効率的に行うために、どこでどのように活用してもらえるか、という観点が求められています。正確さが求められるというより、普段の業務にどのように実装されるとよいのか、業務の効率化につながるのか。ここの視点は外せません。
例えば、音声機能などはその代表的な例です。看護師さんがカルテに入力する時間が長いという課題があります。これを生成AIで音声変換することで、より効率的な作業につながります。私たちにとっては、脅威になるというよりも、ビジネスに取り込む要素があるか、そうした視点で捉えています。
竹内氏:いまの話とは少し異なるかもしれません。外科医というのは、自分の見たものを信じているので、手術をやるときに生成AIを使うということはないでしょう。ひょっとしたら先見の明がないのかもしれませんが、考えのなかにはありませんでした。ただ、サマリーを作成したり、手術教育で使ったりするというのは、今後可能性があるかもしれません。
インプラントは比較的侵襲性が他の事例に比べると高いデバイスかと思いますが、欧米と日本との違いをどう捉えていますか。
米澤氏:日本でもインプラントの開発はあり、既存の後発品に当たるような製品が多いかと思います。日本でのシェアのない製品、とくに脊椎領域に関してはなかったので、アドバイスをもらうことができなかったのが苦労しました。
今後、MedTech Angelsに望む支援はありますか。
新嶋氏:VRのペインコントロールに取り組んでいて、業界全体で見たとき、デジタルセラピューティックス自体がまだ走り始めた状況です。一方、ポジティブな面として、アジアの市場であれば、アメリカの市場と違って保険が適用されると必ず戻ってくるという点で希望はあるのでアジア・日本中心に事業を展開していきたい。ここで学んだ知識を元に、もう少し具体的な医療機器化までのマイルストーンを設定し、日本とフィンランド、インドネシアで展開したいと考えています。
井上氏:MedTech Angelsで受けた講義で、ナレッジがついたのはありがたかったです。これをベースに実際の事業にあてはめて考えると、課題が見えてくる。できれば、次にどう対応していくのがよいのか、医療機器に開発していけるのか、といった、私たちが具体化できてない部分を詰めていくような支援があると嬉しく思います。
奥村氏:AIがますます医療の現場に入ってきたら、医者の仕事はもう少し集約されると思います。そこで求められるのが、人と人のつながり、温かみといったものです。それが一番、医者に求められるものになるのではないかと。便利さの追求とともに、温もりのある医療が提供できるよう、取り組んでいきたいと思います。
そして医者というのは、学会や論文発表が一つのモチベーションになっています。学会発表してしまうと、起業における知財への対応がおろそかになり、特許化は難しくなる。医者のモチベーションも大事なのですが、特許も含む知財戦略について早期の段階でご教授いただけるとありがたいと思います。こうすると、医療発、医者発のスタートアップも増えるのではないかと思います。
金田氏:目下の課題は創業です。そして、海外との連携を図るうえで、PoC(Proof of Concept:概念実証)というか、新たなアイデアやコンセプトの実現可能性や得られる効果などについて検証するには海外のほうがやりやすいかと思っています。海外とのパイプをつなげられるような支援があるとありがたいと思います。例えば、海外の病院などのほうが、データの蓄積をしているところも多いため、AIでデータの独占をしなくてもいいのではないかと。
竹内氏:私たちのビジネスには、まだ薬事、保険、患者さんの個人データを管理するKMS(暗号化操作に使用されるキーを簡単に作成および管理できるマネージドサービス)など足りないところだらけです。実際の事業でも同様です。ただMedTech Angelsに参加したことで、適切なタイミングで、適切な人材を投入できたこと。このタイミングは、なかなか自分たちだけでは成し得なかったこと。こうした指導をしてくださった人たちとのつながりの大事さを実感しています。
そして、同じような目標に向かい、同じようなレベルにある仲間同士が、つながりあえることも素晴らしいことだと思っています。こうした触れ合い、刺激が、新たな知見を生み出すのも当然のことですが、ともに励まし合える友がいることは大切です。
米澤氏:ここまで来られたのも、専門家や先輩の起業家の方々からのアドバイスがあればこそだと感じています。これは、MedTech Angelsでのご指導の賜物だと思います。
整形外科領域の開発では多くの医者が構想を練っているかもしれません。そういったなかでの、一つロールモデルにわが社がなれれば嬉しいと考えています。
奥村氏:コロナ禍という状況もあって、飲み会はなかったですが、同じような段階のスタートアップ同士の情報共有は、私たちにとっても非常に大事でした。これまで面と向かって話す機会はありませんでしたが、今後は機会を設けて情報共有、交換できることを願っています。
貴重なご意見をありがとうございました。貴プロジェクトの成功を祈念しています。