MedTech Angels Season3
最優秀賞 テクリコ 杉山崇氏インタビュー
Q1.御社の事業内容とリハまる(MRを使った3Dリハビリテーションシステム)の開発きっかけを教えてください。
元々はソフトウェアの受託開発の会社です。私自身もプログラマーとしてスマートフォンのゲームやVRのアプリ開発をしていたのですが、私の知人が脳卒中で倒れてしまい、その時に「VRを使ったリハビリテーションができたら良いのではないか?」という想いでリハまるの開発が始まりました。
関西医科大学さんとの共同研究という形でスタートしているプロジェクトでして、私たちはミックスドリアリティ(Mixed Reality)といった技術にこだわっており、いわゆる現実空間の中に仮想空間を作り出して、その中でリハビリテーションをやっていただくというものになっています。
リハビリって聞くと辛くて大変というイメージも多い中で、楽しみながらやっていただきつつ、ただゲームで終わるのではなくしっかりと効果の出るものを作っていこうということで、アカデミアと連結しながらしっかり研究も行いながら開発を行ってきました。
Q2.リハまるによってどのような世界が実現できるようになりますか?
実際に使用された方の声もお伺いさせてください。
その知人がおっしゃっていたのですが、入院されて体験したことのないような症状がどうしても出てしまいとても不安な気持ちでいる中で、特に立体的な奥行きをきちんと見せることができるようになるリハまるは凄いよね。というお話は頂いていました。
窓の外に見えている遠くの景色の立体感が分からなくて、本来であればかなり遠くにあるはずのビルが、一枚絵のように見えてしまう。そういったことがとても不安だったので、遠近感が感じられるリハまるがあれば、こういった症状のリハビリができるとおっしゃっていただきました。
完成した製品を高齢者の方に数多く使用していただいていますが、私たちも最初はこのような最先端の技術を、高齢の方に使っていただけるのか?受け入れてもらえるのか?という不安もありました。
しかし、意外に皆さん受け入れてくださり、操作が直感的にしやすいところが良かったのかもしれません。使用された方に「楽しかった!おにいちゃんまたやらしてな!」という声を頂くこともあり、とても嬉しく思います。
また、普段はリハビリを嫌がってやってくれないという患者さんで、いつも部屋にこもりがちなのに「リハまるであればやってあげてもいいよ」という感じで、部屋からリハビリ室にでてきてくれるようになったという嬉しいお声も病院の現場からいただけるようになりました。
Q3.なぜ、MedTech Angels Season3に応募しようと思ったのですか?
また、参加されたことで、何がどう変わったか?
参加前と参加後の組織やご自身の「変化」について具体的に教えてください。
医療機器のことが右も左も分からない中でずっと進めてきて、そのコンセプトや内容はとても受け入れて頂けている。というところまではきていたのですが、このままビジネスとして進めようとしたときに、医療機器の規制や保険適用などの医療機器開発に関する「しくみ」を使っていかないとグロースしていくことは難しいだろうと考えました。
特にリハビリは今の保険制度においても、この機器を導入しても経営的なメリットがなかなか出せないというところにずっと障壁を抱えていたのです。モノはとても気に入ってもらって、現場でも導入したいのだけど。やはりそこに経営層がお金を出してくれない。少しでも保険点数がつけばいいというお声をずっといただいていたので、どうにか、そういう状況にしていきたいという思いがありました。
自分たちでも医療機器開発に関する「しくみ」を勉強しながら調べていたのですが、やはりものすごく難しくて、全く分からなかったのです。いろんな疑問にぶつかったときも、だれに聞いたらわかるのだろう?とそれぐらい分からない状態でした。その時にプレモパートナーのHPで「MedTech Angels」を見つけました。
何がきっかけだったかまでは詳しく覚えていないのですが、あの頃本当に必死になって色々調べていたので、自然とでてきたのではないかと思います。
「まさにこれは本当に自分たちが今疑問に思っていいること・知りたいことを解決できるアクセラレーションプログラム」そのような機会になるのではないか?と思い、本当に見つけてすぐさま応募しましたね。実際に採択いただいて、講義を受講したり、メンタリングをしていただく過程で色々な疑問をぶつけさせてもらい、医療機器開発の仕組みについて必要な知識を身につけることができました。
ただ、身につけばつくほど、やはりさらに難しいところもあり、良い意味でしっかりと仕組みを知ったことによって、すぐにでも保険収載を目指すだけが道ではないと、逆に分かったところもあり、色々な戦略の立て方などをきちんと考えることができるようになった。そういったところが一番大きな変化だと思います。
Q4.MedTech Angels に参加する前と後で、事業計画の完成度はどのように変わりましたか?
最初の事業計画は、あまり分かっていなかったので自分たちなりに勝手な事業計画を立てていました。例えて言うなら計画に穴がいくつも空いている状態ですね。それが、だんだんと穴が埋まってきて、それによって事業計画自体も変更しないといけないところが出てきました。数字でいうと40%だったものが80%まで上がったようなイメージでしょうか。残りの20%は色々な事を理解した上で、きちんとタイミングをみて、状況を見ながら進めるようにしています。
Q5.MedTech Angels の良さはどこにあると思いますか?
他のアクセラレータープログラムとの比較も含めて教えてください。
一般的なスタートアップのアクセラレーションにはいくつか参加したことはありますが、やはり医療機器に特化しているアクセラレーションはなかなか無いのでMedTech Angelsがすごいと思ったのはとにかく「医療機器特化という点」ですね。
一般的な事業計画の立て方や基礎的な知識はすべて勉強してきましたが、いざ医療機器となると色々と障壁があって分からなかったことがクリアに分かるようになった。という事がとにかく素晴らしい。医療機器に特化しているというのはもう凄いことだと感じています。集まっている講師の方やメンターの方も皆さんスペシャリストばかりで、そんなことまで聞ける!そんなことをまで教えてくれる!という安心感もありました。
Q6.海外進出のお考えは?どのような段階的戦略を考えられているのでしょうか?
もちろん、私たちは当初から考えています。海外に通用するものだという意識を持っていましたし、プログラムを作るときも最初から多言語対応していましたね。現状はカンボジアの病院さんに試験的に導入していただいています。先日のメンタリングでもそういったお話をさせていただいたのですが、ぜひ狙っていけるところは狙っていこうと思っています。
Q7.製品を医療機器にしようとすると様々な規制が厳しいですが、
一般機器と医療機器で悩まれている方に、アドバイスをお願いします。
私たちもずっと悩んできましたし、いわゆる一般的なアクセラレーションを受けていた時にVCの方からも「何も医療機器でいく必要はない」と言われる方も結構いらっしゃるんですね。一般論ではそうなのかもしれないですけどね。
ただ、私達は医療機器クラス1の医療機器登録をしているのですが、それすらも登録する前はものすごくハードルが高かったですね。医療機器って名前がついているだけで、ものすごいことだと思っていたのですが、実はクラス1くらいはそこまで大したことはなくて、体制さえきちんと整えれば取得できる。振り返れば、そういった知識もなかったなと。「何も医療機器で行く必要はない」とよく言われていましたが、私たちからするとそれをすることによって、アカデミアで研究目的に使う先生方にリンクができたり、いろいろとメリットもありました。
きちんとした知識を、ある程度身につけて、その上で本当に自分たちのビジネスモデルとして、本当に必要なところを狙っていけば良いのではないかと思います。
医療機器にしてもしなくても、どちらも正解だと思っています。実は一般論ってあまりないのではないかなと。きちんと業界のことや自分たちのビジネスモデルを考えるとおのずと答えが出てくるのではないかと思いますね。医療機器クラス1を取得した今、今後どのようにするかを段階的に分けて戦略を考えています。
Q8.最後に、起業しようか迷っている人へのアドバイスを伺えますか?
私の場合は、起業しようと思ってしたわけではなく、自然の流れで、気づいたら起業していたという感じのタイプなので。なので、普通に起業すれば良いのではないか?と思います。起業すること自体は全然難しくないですし、やりたいと思えばできるものですしね。
自分たちがやりたいことがあるのかどうか?ということが重要で、「起業の為に起業する」という事は避けた方が良いと思います。
貴重なご意見をありがとうございました。貴プロジェクトの成功を祈念しています。